本読み、音楽、アニメ、ゲームなど……じぶんのためのメモ的なものを、気まぐれに載せています。

2014年10月5日日曜日

「味」

15:02 Posted by どぼん , 4 comments

10/05 : 秋山徳蔵「味」

 ところが、ほんとうに良人を愛している女房は、たとえ料理は下手でも、どうしたらおいしく食べて頂こうか、これでは食べにくいからこうしておこう、汁が浸み出して手でも汚してはいけないから、紙を一枚入れておこう――そういった深い心遣いをしながら弁当をつくる。これが良人の心に響かぬはずがない。このように、料理をつくる心は、世の中のすべてに通ずると、私は信じている。 (pp. 196-197)
◆宮内庁(宮内省)の総料理長として、50年以上にわたって天皇に料理を作り続けた筆者 (1888-1974)の随筆。少年時代のいたずら、料理修行、仕事に対する考え方、食に対するこだわり、宮中のしきたり、皇族や諸国の王族に関する逸話、友人や妻との思い出、どれも興味深い逸話ばかりです。職人としての矜持を感じさせながら嫌味を全く帯びないのは、そこに筆者という人間がみえてくるからなのだと思います。それは筆者が終始語っている、”料理などに大切なのは、まず人間であり心なのだ”という考えをそのまま文章で再現しているような、不思議な魅力があります。読みものとしてはもちろん、食が好きな人や皇族の方々の人となりに関心のある人、色々な人におすすめしたい一冊です。

◆まず綺麗な装丁が気に入りました。裏を返すと筆者の素敵な笑顔。モノをもたない僕は、「本を買いたい」と思うことがほとんどないのですが、この本はなぜかとても気に入りました。以下、気になった逸話やらのメモ。

七分づきに丸麦

昭和2, 3年に静岡の茶園へ行幸された際の話だそうです。陛下はそれに付き従った高官たちと陪食をおこないました。高官たちの食事は、折三段重の立派なものでしたが、陛下の食事は黒い握り飯のみ。それをみた高官が、「黒い握り飯は上等のもので、白いのが普通の握り飯なのだろう」とおもって黒い握り飯を食べてみると、じつにまずい。それをよくみると、七分づき程度の米に丸麦が半分ほど入れてあったのです。それが陛下の常食だと知り唖然としている一同に、陛下はこうおっしゃったそうです。「従医から聞いたのであるが、米の七分づきに麦を混ぜた飯は、衛生上たいへんよろしいそうである。食べつけてみると、味も白米飯よりもよろしいので、私はこれを常食にしている。しかし、私の好物だからといって、諸子に強制する気持はない。それで、半分だけ白米飯を加えて、これは参考までに添えたものである (p. 85)」。

筆者曰く「そのへんにいるつまらぬ役人どもや、政治家のほうが、ずっと非民主的である (p. 83)」ということであり、それを説話のように物語っている逸話だと思います。

スープ鍋をぶちまける

西洋修行中、筆者はシェフに「スープ鍋をストーブの上に持ち上げろ」といわれたそうです。その鍋は一人では到底持ち上げられないので、筆者は当然「できない」と答える。シェフと押し問答が続く。仕方なく筆者は「どうしても持ち上げろというんですか」と聞くと、シェフも意地になって「ウイ」という。厨房の中で、店主を含めた全員がこちらを見ている。そこで筆者は、鍋の把手に手をかけて、勢いよくスープをぶちまけた。そして、空になった鍋をストーブの上へドカンと乗せた。(pp. 42-46)

またあるときは、果物を切って出すという習慣が宮中になかったため、「果物を切って出すものではない」と文句を言われたことがあったそうです。それにグッときた筆者は「そうですか。じゃア、メロンも、西瓜も、丸ごと出しますから、そうお考えになっといてください」と返したそうです。(p. 100)

いずれも筆者が若かったころ(=血の気が多かったころ)の話だと思いますが、口でやり返すこの反撃の仕方が面白いですね。



宮中言葉

現代ことば御所ことば
=うちまき
=およね
御供米=おくま
飯(お上の御料)=ごぜん
飯(女官の料)=おばん
飯(自分の飯のこと)=はん
乾飯=ほもじ
赤飯=こわご、こわくご
かやく御飯にだしのつゆをかけたもの=ふきよせ
二度たきの飯=おふたたき
=おゆに
焦飯の粥=おゆのした
そばの粥=うすずみ
=おかちん
餅に餡をまぶしたもの=おべたべた
お汁粉=おすすり
菱葩(ひしはなびら)=御焼がちん
円形の餅片に少しの砂糖なしの小豆餡を盛ったもの=小戴(こいただき)
元旦に召しあがるお雑煮の一種=烹雑(ぼうぞう)
朝召し上がる餅=おあさのもの
菱餅=おひし、ひしがちん
かき餅=おかき、かきがちん
豆入りあられ=いりいり
そば=そもじ
冷麦=ひやぞろ
そうめん=ぞろ、ぞろぞろ
=おすもじ
萩餅=やわやわ
まんじゅう=おまん
せんべい=おせん
団子=おいしいし
ちまき=まき
白玉=うきうき
麦こがし=ちりちり、ちりのこ
さつまいも=きいも
小芋=ややいも
=おひや
=おさゆ
=ささ、おっこん、くこん
白酒=ささ、ねりおっこん、ねりくこん
雉酒=おきじ
甘酒=あまおっこん
=しろもの
味噌=むし、おむし
醤油=おしたじ
すまし汁=おつゆ
味噌汁=おむしのおつゆ、おみおつけ
漬物=おこうこ
菜の漬物=おくもじ
たくあん=こうもふり
すぐき=すいくもじ
副食物=おまわり
焼きものの総称=ひどりのもの
和物=おあえのもの
磨糠(すりぬか)=わりふね
納豆=いと
こんにゃく=にゃく
豆腐=かべしろもの、かべ、おかべ
焼豆腐=やきおかべ
揚豆腐=あげおかべ
小豆=あか
=あおもの
乾菜=のきしのぶ
ちさ=おはびろ
大根=からもの
牛蒡=ごん
南瓜=おかぼ
=ねもじ、ねぶか、ひともじ
にら=ふたもじ
にんにく=にもじ
たけのこ=たけ
たけのこ飯=たけのおばん
松茸=まつ
松茸飯=まつのおばん
つくし=つく
わらび=わら
かりん=あんら
=おまな
=おひら
甘鯛=ぐじ
鰹節=おかか
いわし=おむら、おほそ
=あかおまな
えび=えもじ
たら=ゆき
はも=ながおまな
かます=くちほそ
かざめ=かざ
えそ=しらなみ
たこ=たもじ
さば=さもじ
にしん=ゆかり
かずのこ=かずかず
うなぎ=う
ふな=やまぶき
こい=こもじ
いか=いもじ
するめ=するする
このわた=こうばい
いりこ=りょうりょう
ごまめ=たづくり
ちりめんざこ=ややとと、じゃも
長熨斗=おなが
かまぼこ=おいた
なます=おなま、おはま
=くろおとり
=しろおとり
深い茶碗=しゅんかん
深い皿=おふかど
=おみはし
陛下のお品物(食品も含む)=大清(おおぎよ)
臣下の料=中清
いかき笊=せきもり
食物を細かく刻むこと=はやす
食物を切ること=なおす
漬物を切ること=わたす
物を焼くこと=ひどる
煮ること=したためる
洗うこと=すます
器物を洗うこと=おすすぎ
おから=うのはな

4 件のコメント:

  1. 今は平和かぁ…あ間違えた、今は平成かぁ。宮内庁の総料理長の本…すごい本じゃないですか。どヴぉんさん、ほっっんと素敵な本を見つけますよね♪これまた読んでみたい。表紙は実際に宮内庁で使われたおしながき?なのでしょうか、この部分を見ただけでも素敵ですね。

    まずいものはマズイ!って こんなもの食べられるかっ!って言いきる人、プロの料理人の中にもいますよね。なんだか、どヴぉんさんが引用してくださった部分読んで うれしい気持ちになりました。私は何しても下手なので、プロの料理人から見たら、料理なんてやめちまえってなるかなと思ったけど、気持ち伝わる人には伝わるんだなぁと。

    おお、最後の「宮中言葉」大変だったでしょうに。現代のと比べながら、興味深く見てしまいました。
    餅に餡をまぶしたものを「おべたべた」なんて かわいすぎるぜ。と思って読んでいたけれど序の口でした。いりいり、ぞろぞろ、やわやわ、おいしいし とか。(どうも同じ言葉の繰り返しに弱かったそうな私。意味不明 うきうきかぁ。まったく知りませんでした。料理だけじゃなくて言葉の面も興味そそられます☆素敵な本を紹介してくださって、いつも本当にありがとうございます!

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    1. 表紙がステキですよね!
      引用した部分は、料理人として批判的に味わってしまう筆者が唯一美味しく食べることのできる料理、家庭料理について書いた部分です。ともすれば、日常的な家庭料理で忘れてしまいがちのが、いちばん大切な心なのかもしれませんね。家庭料理についてもう一つ、レシピが主婦の創造性を奪っているという記述も興味深いものがあります。

      宮中言葉はちょっと大変だったのですけど、ほかのサイトにあまりないので載せてみました。まあ、大変だったというのは、表のデザインを調節するのに戸惑ったのがほとんどで、内容の入力自体は丸写しなのですぐに終わる作業です(^^;)

      「おべたべた」は「お・べたべた」と言うことなのでしょうか。言葉を重ねる言葉がいくつかありますよね。うきうき!

      ぼく自身この本を読んで、このような生き方をしてみたいと思った一冊でした。

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  2. え!! デザイン調節などもされていたのですか!なんと! まぁありがたいことです。。。 どヴぉんさんのブログは、息抜きどころかそれ以上の効果をもたらしてくれる貴重な場です。

    レシピが主婦の創造性を奪っている。これは本当に興味深いですね。それぞれの家庭の味が、そこらへんのレシピによって正される(壊される)こともあるでしょうし、まさに、著者の言葉通りのことが起きていると思います。そういえば、最近はレシピじゃないレシピもよく見かけるような(謎)…そういったレシピが大きな顔しているのを見るたびに、料理人の方々がさぞ憤りを…と想像したりします。

    私も気をつけなくては。

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    1. いえいえ! デザインは、最初のものがちょっと見づらかったので、そういう細かい部分に限って一々直したくなってしまう性分なのです(そのわりに、大きな問題点に関しては面倒くさがってしまうのです^^;)

      そうなんです。コメントの一文でそこまで読んでくださるとは考えていなかったので驚きました(自分で書いて、”伝わらないだろうな”と思ったのです^^;)。

      筆者は家庭料理とプロの凝った料理をはっきり区別していて、家庭料理は基本的な部分が大事だと書いています。具体的には、煮る焼く炒る蒸すなどの調理法やダシ汁づくりといった木の幹や枝となる部分があって、そこからさまざまな料理に応用すればよいのだと言っています。そうすると主婦が自分で料理を考えるわけですから、それこそが主婦の創造性ということなのだと思います。

      レシピに縛られ過ぎるのも考えものですね。「美味しそうな(かつ安い)食材を買って何かをつくる」のではなく、「なにかをつくるために食材を買う」というように逆転してしまうのも避けたいところです。 それこそ気を付けたいなと思います(^^;)

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