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2015年1月19日月曜日

「作曲の発想術」「まちモジ」「日本人はいつから働きすぎになったのか」

10:45 Posted by どぼん , , , , 4 comments

01/17 : 青島広志「作曲家の発想術」

 肺病で貧血を起こしている女主人公の、それをものともせずに歌うこと! 感極まるとベッドの上に立ち上がって『歓喜の歌』風の二重唱を歌うのだ。また、恋人の男も女も、彼女が歌うのを止めようともしないのである。それに比べれば、幕開きのパーティーのシーンで、それまで会ったこともない二人がぴったり合わせて歌う不思議さなど、物の数ではなかった (p. 180)
 さまざまな名曲はどのようにして生まれたのか。音楽はどのようにしてつくるのか。ごく簡単な分析や時代背景といった名曲案内から、作曲家の実際(とくに経済的に)までのぞくことのできる面白い本です。著者独特の言い回しが何とも面白い本です(引用のとおりです、笑)。◆第一章は著者自身が作曲家に至るまでの悲喜劇、第二章は管弦楽や吹奏楽、ピアノや合唱といったさまざまなジャンルにおける有名な作品の紹介とごく簡単な分析、第三章は「結婚式に曲を作ってくれ」と頼まれた場合を想定して、(その気になれば)だれにでもできるような作曲方法を教えています。
 とくにおもしろかったのは、著者自身の生い立ちを描いた第一章です。音楽を教える人間に対するメッセージや音楽への考え、そして体験談が語られていてとても生き生きとしています。著者が幼少時代に頑張って書いた五線紙に、父親が醤油をこぼし、母親が天ぷらを載せてしまったとか、「石澤先生が、青島先生のところに行っていると下手になるからやめろって」などと言いだすホラ吹き娘に「うちの子に終楽章を弾かせたのは辞めろということでしょう」などと難癖をつける母とか。笑っちゃいました。
 そのほか、大切なアドバイスが要所要所に垣間見られます。初心者に教える場合は最高に丁寧に誘導すべきである(1章)、管弦楽への編曲は芯となる弦楽がきちんと出来ていればなんとかなる(3章)、などなど。

01/19 : 小林章「まちモジ」

 丸ゴシックが選ばれてきた理由は、遠目でも読めること、オフィシャルにみえること、そして手で書くときに効率が良いこと、の3つがバランスよくそろっていたからではないでしょうか (p. 55)
 見た目にもたのしい、世界中の街角でみられる文字のフォントについて教えてくれる本です。たとえば「とまれ (STOP)」の標識ひとつとっても国によってデザインが異なっています。
 とりわけ日本では、「とまれ」といった道路標識をはじめ、いたるところで丸ゴシック体が用いられています。たとえば、鉄道やバス停の駅名や車体の方向幕、銀行の看板などなど。中国などの漢字圏とくらべても、あきらかに角の丸い文字(丸ゴシック体など)が多いようです。
 なぜ日本では丸ゴシック体が用いられてきたのか。それは、描きやすさと見た目を両立した職人技に由来するものだったようです。他方で、なぜ他国(とくに漢字圏)では日本ほど丸い字体が用いられることはなかったのか、という疑問が残りました。はじめから手書きではなく、印刷(?)などの生産方式が確立されていたのでしょうか。
 ともあれ、額縁に収められることもなく、人によってつくられ、人に使われ摩耗してゆくデザイン。デジタルフォントを製作する著者がそんな「まちモジ」に愛着を示す気持ちが少しだけ分かった気がしました。

01/23 : 礫川全次「日本人はいつから働きすぎになったのか」

 ウェーバーのいう「資本主義の精神」を支えていたのは、カルヴィニズムという非合理的な「宗教」であった。同様に、江戸期における日本人の「勤勉性」を支えていたのも、浄土真宗という「非合理的な宗教」であった。明治期においては、日本人の勤勉性を支えるものは、ある面においては「修身」というイデオロギー教育であり、また他の面においては、「生存競争」という現実であった。それらを支えていたのは、いずれも「非合理的」なものであった (p. 241)
 日本人の「勤勉」という価値観の源流をたどり、その帰結として人びとが「自発的に」「勤勉であること」を強いられている(自発的隷従)現代に至る過程を論じている本です。そこには、思想、為政、企業、さまざまな立場から勤勉であることが価値観として求められ、そのなかでつねに変容してゆく人びとの様子が描かれています。その結論は引用部分のとおり、宗教や思想、為政のためのイデオロギーや生活の必要性といった「非合理的」なものが「勤勉」を成立させていたというものです。
 よくよく考えてみれば、日本人は勤勉だと一般的には言われてきましたが、その価値観がどのように成立したかということを考えることはあまりありません。まして、「働きすぎ」によって死に至るということを思想の歴史から考えるという視点もぼくは持っていませんでした。その点で、この本の投げかけているテーマは面白いと思いました。(ウェーバーを持ち出している部分で、すこし疑問点もあるのですが、これはぼくの勉強不足というかなんというか……)  この本は14の仮説から出来ており、それを見るだけでこの本の全貌が大体つかめるという、便利なつくりになっています。なので、ここに仮説を残して要約をサボることにします。

仮説

  • 仮説0. 人々を勤勉に駆り立てるものは、その社会、あるいはその時代のエートスである, 29.
  • 仮説1. 日本では、江戸の中ごろに、農民の一部が勤勉化するという傾向が生じた, 27.
  • 仮説2. 江戸期の日本では、すでに勤労のエートスを導くような文化が成立していた, 35.
  • 仮説3. 江戸時代の中末期、浄土真宗の門徒の間には、すでに勤労のエートスが形成されていた, 91.
  • 仮説4. 日本人の勤勉性の形成にあたっては、武士における倫理規範が影響を及ぼしていた可能性がある, 105.
  • 仮説5. 明治20年代以降、少なからぬ日本人が、二宮尊徳の勤勉思想から、勤勉のエートスを学び、勤勉化していった, 137.
  • 仮説6. 浄土真宗門徒における勤労のエートスは、日本の近代化に積極的な役割を果した, 142.
  • 仮説7. 明治30年代に入ると、日本の農民の多くが勤勉化した, 149.
  • 仮説8. 大正時代の農村には、すでに、働きすぎる農民があらわれていた, 164.
  • 仮説9. 大正時代の農村には、なお、勤勉でない農民が残存していた, 164.
  • 仮説10. 戦時下、産業戦士と呼ばれていた労働者が置かれていた状況は、今日の労働者が置かれている状況と通ずるものがある, 191.
  • 仮説11. 日本人の勤勉性は、敗戦によって少しも失われなかった, 203.
  • 仮説12. 高度成長期に、日本人労働者は働きすぎるようになり、その傾向は、今日まで変化していない, 217.
  • 仮説13. 近年の過労死・過労死自殺問題には、日本人の勤勉性をめぐるすべての難問が集約されている, 225.
  • 仮説14. 日本人は、みずからの勤勉性を支えるものが何であるかについて、深く考えようとしない, 243. 

4 件のコメント:

  1. 「作曲家の発想術」
    面白そう。幅が広くて内容が濃そうなところも興味をひきますね!これは読んでみたい。作曲家や作曲に絞った本は読んだことがないんです。しかもどヴぉんさんが面白いとおっしゃった本ですからね、管弦楽に関する作曲・編曲も触れられているなんて、すごく興味深いです♪♪作曲家といえば、どヴぉんさんの素晴らしい作曲の才能、思い出しちゃいますね。ストーリーも美しく力強かった。私自身勇気づけられました。今、絶望があっても、今は絶対無理だと思っていても、頑張って前に進めば、光を見つけられると教わったのです。頑張りますッ!(謎

    「まちモジ」
    ほー、これまた面白そうですね。デジタルフォント製作者の視点というところも、興味深い。というか、日本は丸ゴシック体が多いんですね、ほー。たしかにたしかに、ほかの漢字圏とか中華街?のようなところを想像してみると、日本の街中ってあんまりカクカク・キチキチした感じがないですね。(意味わからん だからといって、それ以外がカクカク・キチキチしていると言いたいわけではなくて、ほかの漢字圏や中華街のようなところであっても、神社やお寺のように、丸くない文字でも、それはそれで重みや伝統などの良い味感じられて素敵です!!

    「日本人はいつから働きすぎになったのか」
    なるほど、「価値観」。今の日本じゃ、ずっと働いていないと生きてる気がしない、って人もいそうです。私もある意味でそうなりたいが、ある意味では いや。(意味不明 すでにタイトルではっきりと言われているように、やはりこれまでのことが、今に続く「働きすぎ」「勤勉」な日本人につながっていることは間違いないのでしょうし、他国と比べるよりも、自国に集中して考えるほうが、特質を解明しやすいのでしょうね。深いですね。思想なども含んでの勤勉の価値観、ということは将来、日本人がそんな働かなくてもいいか、と思う日が来る可能性もあるのかな。日本の歴史さっぱりなうえに勤勉じゃない私には、なんだか申し訳ない気持ちがこみ上げてくる本です。…

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    1. 「作曲家の発想術」が面白かったのは、音楽自体に関する記述が(知識的に)面白いというよりも、著者の音楽生活やちょっとした冗談……つまり、人となりが感じられて面白いということですね。ぼくの打ち込み、まして作曲などは下手の横好きです(笑)

      「まちモジ」は、世界中の写真(=実例)が豊富に紹介されていて、みるだけでも面白いです。手書きの場合には「丸い文字のほうが工程が少ない」という、技術的な理由から選ばれているというお話が印象的でした。(そうだとすると、海外ではどうして手書きでも角ばった文字が使われてきたのでしょうか……伝統?)

      「日本人は…」は、「勤勉であるべきだ」という圧力、そして自発的にその圧力に隷従する人びとの姿を描き出していて、そのうえで著者は「むしろ怠けるぐらいでいいんじゃないか」ということをいっていますね。ぼく(もしかしたら、St' さんも?)の味方です。

      おっしゃるとおり、「そんな働かなくてもいいか」と思う人はすでにいるでしょうし、こんにちの過労死の背後には勤勉の価値観というものがあるのか、それ以外の原因のほうが多いんじゃないかなど、いろいろ調べてみたいことはあるのですけど、価値観をたどるというのはこの本の面白さかなと思いました。

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    2. いえいえ。私としては、どヴぉんさんにも「どヴぉんさんが教えるよ!作曲家の発想術」という本を書いてほしいです。(あ なんか ちょっと…タイトルのセンス皆無?涙 お世辞じゃないですよ。どヴぉんさんが作曲教室開いたら、ぜひ生徒として参加したいですもの。

      手書きだと丸い文字のほうが工程少ないなんて考えもしなかったですが、でもどヴぉんさんのおっしゃるとおり、たしかに海外の場合はどうなんでしょうね。この本を一度読んで、自分の考えをまとめてみたいところです。

      あは。私の゚+.味方.+゚ですか。なんてよい響きなんでしょう笑 働くこと、働きすぎること、そして過労死、のキーワードで思い出したんですが、ずいぶん前、人が死を目の前にして思うことの上位、だったかなーそれが取り上げられていた記事を見たことがあるんですが、仕事ばかりじゃなく友人や家族との時間をもっと優先すればよかったとか、自分が本当にやりたいことをやっておくべきだったといった内容が含まれていたかと思います。ただ、日本の調査結果じゃないんです笑、海外だったのは確かですが国などはすみません覚えていないです。日本で調査したことあるのかなー。国によって中身は違ってくるでしょうし、自分の大好きな仕事内容だったらこれまた違う見方が必要になるでしょうけれど、それでも、まだ棺桶に片足突っ込んでいないどころか近づいてもいない人が言うのと比べると、なんかやっぱり言葉に重みがある感じがしました。

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    3. ド素人のぼくなんかが講座をやったら、生徒がなにをやっても「うんうん、いいね」と言うばかりで何の講座にもならないでしょうね(笑)

      それを調べるためには、看板文字を手書きするという技術の歴史をたどりたいところですね。気になります。

      死ぬ前に思うことランキング、こちらも気になりますね。すこし調べた限りでは『「死ぬときに後悔すること」ベスト10』という本もあるそうですが、海外の調査となるとまた違った結果が出ていそうで興味深いです(例えば、人生――いまではワークライフバランスなどといわれますが――における仕事の位置づけも日本はかなり違うでしょうし)。が、僕のアンテナは日本を出るとまるで役に立ちません(笑)
      死に面するということは容易に体験できることではなくしたいことでもないですから、そうした方の意見は(そのときにならないと実感しえないという点も否定できませんが)参考になる教えが含まれていて重みがあると思います。

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